これは、私がかくかくしかじ課に戻ってきて2ヶ月の間に起こったことです。あなたは、不正解のルートをたどらずに進めることができるでしょうか。私は残念ながらできませんでした。その自戒の念を込めて、この出来事を振り返ります。
なお、このお話はフィクションではありま・・・
人物相関図
登場人物
いやがらせ上司(いがらせ)
私の上司。私に対して、日々、いやがらせを繰り返す。かくかくしかじ課の課長であり、実権を握っている。自分のポジションが危ぶまれる状況になると高圧的な態度を取ってくる。作業の効率化と上司をおだてることが得意なチームのまとめ役。出勤は始発で。テレワークでも仕事は朝6時から。
ねちねち上司(ねっちー)
私の上司2。私に対しては基本的に干渉しない。私がいやがらせ上司からいやがらせを受けていることは人づてに聞いているが、自分の成果に影響を与えない事象には干渉しない。徹底的な成果主義であり、途中経過を上司に報告しないため、私の成果がここで滞留していることがまれによくある。まれによくあるってなんでしょう。
私
いやがらせ上司とねちねち上司の部下。当初はいやがらせ上司の直属の部下であった。訳あって私がかくかくしかじ課を離れており、約2年後にこの課に戻ったときには、いやがらせ上司はリーダーになっており、私はねちねち上司の部下になった。
あずかりさん
宅配便で届いたものを一括で管理する預かり所の管理人さん。
さあ、ここは今から倫理です。
私がこの課に戻ってから1ヶ月。既にいやがらせを受けている。それにしても、ようやく1ヶ月か。1ヶ月って長いなー。
それにしても、2年前に私が作ったルールは完全に無かったことにされてるな。在庫管理がまるでされていない。これじゃなにも試作できないじゃないか。――とりあえずレーズンパンを作りたいから、強力粉と全粒粉…じゃなくてデュラムセモリナ粉、無塩バター、ドライイースト、レーズンを業者に発注しよう。まさか、ほとんどの材料を発注することになるなんて思わなかった。まあ良い。ローカルルール(明文化されていないルール)を作っていた私の過失だ。
どうせ配合表も、試食評価表も私が作ったテンプレート使ってないんですよね。過去の資料を確認すると、やはり使ってなかった。というか、資料の中身が汚い。こんなものだと、新しい課員が入ってきたときに引き継ぎできないぞ。そもそもどこの引数を引っ張ってきてるんだ。わけわかめ。仕方ない、いやがらせ上司のいがらせリーダーに聞いてみることにした。
*わけわかめ: 意味は、「わけがわからないよ。」
そんなことをするはずがない。いつものリスク回避。たとえ引用が間違っていようと指摘などしない。だって2年間なにも進捗無しだったのだから。既にこのデータは用無しだ。むしろクラウドで保存する価値が無いと思うのだが。このことを霞を食うっていうのか。
業者の方が機転を利かせてくださり、想定以上に早く到着することが分かった。よかった。これでようやくレーズンパンが作れる。材料が届いたらすぐに試作ができるように準備しておこう。そうして私は機器の予約、作業員の確保を行った。このときは未だ気づいていなかった。あの、いつもの瞬間が訪れることに。
あのメガネ君、ポロリ
幼い頃から勉強好きで、小学生から眼鏡をかけていたというねちねち上司のねっちーに、レーズンパンの試作が予想以上に早く着手できそうだと伝え、事前に配合表・試食評価表を作成した。というか試食評価表の評価式がちゃんちゃらおかしかったので、評価式を刷新し、なおかつ結果が出たらすぐに解析できるような状態にした。というか、なんで今までこれやってこなかったのよ。一回、テンプレート作っちゃえば終わりでしょうに。やばいやばい。負のオーラが出ている。なにか楽しいことを思い浮かべよう。そうだ、お昼ご飯だ。
私の勤務している会社である ぱんのお城では、ありがたいことに管理棟に食堂がある。まあ、出てくるのは当然パンなのだが。カレーパン、おいしいよね。あーお腹空いたなー。いやしかし、お昼の時間にまたいやがらせされるかもしれない。まあいいや。ねっちーに誘われ、一緒にお昼を食べることになった。たまにはお昼に白米を食べたい。ねこまんまでもいい。ねこまんまとパンって合うのかな。一回試してみようかな。そうこうしているうちに、あの瞬間が訪れた。
窮鼠はレーズンの夢を見る
管理棟のそばには預かり所がある。ぱんのお城宛に届いた宅配便を一括で管理している場所だ。今日昼過ぎにレーズンが届くことになっている。お腹もいっぱいになったし、一回預かり所寄ってから自分のデスクに戻るか。預かり所に寄ると、そこには…レーズンは無かった。まあそうか。まだ届いてないよな。と預かり所を離れようとしたその時。
――おいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。そいつがルパンだ。
月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也。
松尾芭蕉著「奥の細道」にて登場する文章。なお、李白の詩「春夜宴桃李園序」から引用しているそうです。そのまま訳すと、「月日というものは永遠の旅行者であり、過ぎゆく年もまた旅人である。」となる。が、この後に「舟の上に生涯をうかべ、馬の口とらえて老をむかふる物は、日々旅にして旅を栖とす。」(船の上に生涯を浮かべて過ごす船頭さん、馬のクツワを引いて年取ってゆく馬を引く人は、毎日が旅であり旅を住処としている。)と続く。簡単に意訳すると、「何もせずとも時は過ぎていく。わたしは旅に出ようと思うが、おぬしはどうするのじゃ。」という感じだろうか。今っぽくいうと、「命短し恋せよ乙女」だろうか。
と考えていたら、既に同じようなことを考えている方がいらっしゃった。
これを今風に言うとどうなるんだろう? と思いました。3年ほど前に、弥生美術館を訪れたとき、こんなイベントをやっていました。「命短し恋せよ乙女」、どうでしょうか。
やはり、世界は広い。今から旅に出よう。――いや。今っぽく言うと、「ハワイから、きゅんです #スキマ時間って何」、だろうか。
正解のルート
レーズンのお取り置きをしていただくように、あずかりさんに依頼をしなければなりませんでした。なんでお取り置きしなきゃだめなのよ、という質問は受け付けていません。つまり、そのままお昼に行ってしまったこと自体、ここまで読み進めてしまったこと自体が不正解だったのだ。
そうそう。レーズンは私のデスクに戻っても、置いてありませんでした。かといって、機器のそばに置いているわけでもなく。いつもの材料保管場所に置いているわけでもなく。なぜか、全然違う機器のそばに置いてありました。この日に試作を行うことは無かった。ロスが大きい。というか作業員も確保していたんだぞ。むしろ私へのダメージが大きい。しかし世界は回っている。
月日は百代の過客にして、行きかふ年も又旅人也。時間は悠久。悠久のひとときはたいしたことではない。